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西村京太郎33 東京オリンピックの幻想 [西村京太郎]

 西村さんが亡くなって2年になる。今年パリオリッピックが始まる。東京オリンピックから3年が経過した。「東京オリンピックの幻想」(2019年5~12月オール読物掲載)で振り返ってみた。この作品はコロナ蔓延の非常事態宣言の前、オリンピックが1年延長となる前に発表されたため、2019年当時の世情を含めた内容となっている。幻となった昭和15年(1940年)の東京オリンピック開催のために奔走する人物を中心として嘉納治五郎などが登場した内容だ。地下足袋やテレビ放送なども登場する。戦争に進んでいく当時の日本の状況と2019年時点の日本とはどう違っているのだろう、と考えさせるような内容になっているのでは。

西村さんは十津川警部を中心とした時刻表によるトリックなどを巧みに利用した鉄道推理小説の作家として楽しく読ませてもらうことが多いが、1963年第2回オール読物推理小説新人賞を受賞した「歪んだ朝」や、1965年第11回江戸川乱歩賞を受賞した「天使の傷痕」(事件の核心改題)などで社会派の作家として時代を鋭く描いていた。「東京オリンピックの幻想」ではコネと暴力で君臨するボスの存在や古めかしい精神主義、アメフト部で相手にケガをさせ拒否すると試合に出させない、学長は現職に居座る、日本は前からボスと手下で支配しそれに他は支配される、ベルリンオリンピックの帰りの船で日本選手はどんちゃん騒ぎ、スポーツ精神は、などの記載がある。1964年の東京オリンピックは無我夢中でオリンピック精神をゆっくり考えることなかったが今回のオリンピックでは。1940年の幻のオリンピックから2020年予定のオリンピックはどのように変わろうとしているのか疑問を投げかけている。1年延期して開催された結果はどうであったろうか。やはり社会派小説の西村さん、当初からブレていないのでは。


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