夏樹静子さんが1973年に第26回日本推理作家協会賞を受賞した「蒸発」。1972年4月にカッパノベルスで発行された。

 蒸発と聞くと、誰かがいなくなったことを想像したが、その通りの筋書きだった。本書では、「・・昨今のようにいわゆる蒸発が流行し出すととても手が回らないのでね。・・」や「・・「水沢豊モーニングショウ・・特集・・人間蒸発・・」・・」のように蒸発との言葉が使われている。

 広辞苑によると1969年5月16日発行の第2版では「液体または固体がその表面において気化する現象」と記載されている。また、1976年12月1日発行の第2版補訂版でも同じ内容だった。ところが、1983年12月6日発行の第3版では「①液体または固体がその表面において気化する現象。②転じて、動機を明らかにしないまま、家族と音信を絶ってしまうこと。」と記載され、この小説での蒸発の意味も加えられるようになっている。

 モーニングショウについてはウイキペディアに詳しく説明されているが、1964年からの木島則夫モーニングショウは記憶にある。時代は覚えていないが、蒸発した家族を探してテレビで呼びかけるシーンもあった。おそらくモーニングショウなど家族捜査の番組の影響などから蒸発の意味も本来の気化現象から家族と音信を絶つ意味にシフトし、時代を反映して広辞苑での記載にも追加されたのだろう。少なくとも「蒸発」が発表された以降の1976年第2版補訂版では蒸発の意味が追加されてもよさそうだが。

 時代背景も考えながら調べてみると、ちょっと違った観点から小説を眺めることができる。