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音楽配信 [夏樹静子]

 西村京太郎や山村美沙の小説には音楽配信に関する内容は無かったように思う。小説現代2001年4月号の夏樹静子原作「不作為の罠」には、アメリカの優れたビジネスモデルの特許を買って、音楽データをインターネットで配信する事業を日本で独占販売する会社、の話が出てくる。調べると、1990年代後半にはアメリカで事業化され、日本でも1997年以降開始されている。日本でも音楽配信が始まり出した黎明期の2001年には小説の中に取り入れられている。短編だが、新しい技術を取り入れた一篇だ。

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夏樹静子5 自動車 [夏樹静子]

 夏樹さんの趣味はゴルフと囲碁とのことだが、てっきり車やドライブでは思っていた。

 小説の中で自動車の車種が多く登場する。例えば1969年12月に小説現代に掲載された「断崖からの声」には「・・頭上にスポーツカーのエンジンが聞こえた。・・白いボルボのように見えた。・・」と。また1969年第15回江戸川乱歩賞の候補となった「天使が消えていく」では「・・チャコールグレーのブルーバード・・」と車種と色が記載されている。その後の小説に、グレーのコロナ、ブルーのカローラ、ベンツ、セドリック、黄色いポルシェ、黒いクラウン、メタリックブルーのカリーナ、小豆色のベンツ、小豆色のBMW、若草色のフォルクスワーゲン、ジャガーなどが登場する。さらに、小説新潮1978年7月号に掲載「闇の演出」では「・・ローバーのエンジンの音ではなかったかと思うと高校生の息子は述べた。・・年式の古いグレーの箱型のローバーが・・」と記載されている。エンジン音車種形状まで記載されているためかなりのマニアでないのかと思わざるを得なかった。

 ご主人の仕事の関係があるのかもしれないが、自動車各社の車種や色までの記載は、推理の本質でない限りこんなに多くお目にかからなかったため驚いた。私が車好きのためか。

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夏樹静子4 蒸発3パテント [夏樹静子]

夏樹静子さんの「蒸発」には、パテントとの表現が出てくる。「・・パテントというのは、丹野鋼材が東洋製鉄に売ったプレスフレームのパテントのことですか・・」のように殺人を犯す動機として使用されている。

パテント特許といえば、TBSドラマ「陸王」で登場するシルクレイの特許や「下町ロケット」での特許紛争などを思い出すが、1972年発行の「蒸発」で登場させた夏樹さんの見識の広さも素晴らしい。西村京太郎さんや山村美沙さんの作品ではパテントや特許の登場を記憶していない。斉藤栄さんの1975年毎日新聞社刊の「ダイヤモンドと暗殺 上 暗殺編」に「・・ぼくの理論とアメリカのパテントが組合わさっているんでほかの人には絶対に真似ができない仕掛けですよ・・」との記載がある程度。「蒸発」だけを読んでもいろんな表現が気になってしまう。

あと、電話に関していうと、「・・別府から福岡はダイヤル即時で繋がるのだが、市外通話のため「松風」ではあとで通話料金を知らせてもらうため、いったん100番に申し込んで待つという方法をとったからですね・・」と。今ではダイヤル即時が当たり前の通話を100番での申し込みと差別化を図っている。1972年当時の時代を生きていた人ならわかるだろう。ひょっとすると現代人にはダイヤルとは何だ、とまで言われるかもしれないが。

 表現を考えながら小説を読むのも一興ではないか。

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夏樹静子3 蒸発2テレタイプ [夏樹静子]

夏樹静子さんの「蒸発」は1972年カッパノベルスで発行された。この中では「・・通信衛星経由ではいってくるニュースのテレタイプをまずボーイが抵当な長さにちぎってデスクにとどける。・・テレタイプのカチカチという機械音だけが途絶えることなく響いている・・」と、情報の連絡手段としてテレタイプが登場する。

テレタイプは1910年代に開発され、1928年テレタイプ社の設立により一般化した名称で、1931年の米国ATT社のサービスによりテレックスと呼ばれるようになった。送信側のタイプで印字した内容がそのまま受信でき、文字情報を瞬時に伝達できる画期的な情報伝達手段だった。

このテレタイプは夏樹さん以外の西村京太郎さんや山村美沙さんの作品にも同時代に、初めて登場する。西村作品では、1971年カッパノベルスで発表された「ある朝海に」で「・・部屋の隅にあるテレタイプが乾いた音を立て始めた。ハンセンは椅子から立ち上がってタイプされていく文字を読んだ・・」との記載がある。また山村作品では、テレックスとしての表現があり、1971年6月に小説サンデー毎日に掲載された「死体はクーラーが好き」に「・・刻々と市況が超短波ではいり、テレックスが文字を刻む・・」との記述がある。

残念なことに、テレタイプはコンピュータの発達とともにその役目を終えていくことになる。1970年代に、紙テープとパンチ機を備えた端末を利用してミニコンでデータ処理をしていたことを、懐かしく思い出した。

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夏樹静子2  蒸発1蒸発 [夏樹静子]

 夏樹静子さんが1973年に第26回日本推理作家協会賞を受賞した「蒸発」。1972年4月にカッパノベルスで発行された。

 蒸発と聞くと、誰かがいなくなったことを想像したが、その通りの筋書きだった。本書では、「・・昨今のようにいわゆる蒸発が流行し出すととても手が回らないのでね。・・」や「・・「水沢豊モーニングショウ・・特集・・人間蒸発・・」・・」のように蒸発との言葉が使われている。

 広辞苑によると1969年5月16日発行の第2版では「液体または固体がその表面において気化する現象」と記載されている。また、1976年12月1日発行の第2版補訂版でも同じ内容だった。ところが、1983年12月6日発行の第3版では「①液体または固体がその表面において気化する現象。②転じて、動機を明らかにしないまま、家族と音信を絶ってしまうこと。」と記載され、この小説での蒸発の意味も加えられるようになっている。

 モーニングショウについてはウイキペディアに詳しく説明されているが、1964年からの木島則夫モーニングショウは記憶にある。時代は覚えていないが、蒸発した家族を探してテレビで呼びかけるシーンもあった。おそらくモーニングショウなど家族捜査の番組の影響などから蒸発の意味も本来の気化現象から家族と音信を絶つ意味にシフトし、時代を反映して広辞苑での記載にも追加されたのだろう。少なくとも「蒸発」が発表された以降の1976年第2版補訂版では蒸発の意味が追加されてもよさそうだが。

 時代背景も考えながら調べてみると、ちょっと違った観点から小説を眺めることができる。

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