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山村美紗 20  西村京太郎 [山村美紗]

 山村女史と西村先生とは親交が深かったことはよく知られている。山村さんが連載半ばで死去された後、西村さんが跡をついで完結した事は有名だ。「在原業平殺人事件」がそれで中央公論に1996年2月号から10月号に1-9章まで山村さんが執筆した後、西村さんが1997年4月号から6月号に10-12章を連載して完結させたものだ。意識して読むと少し書き方が違うかな、とも思うが、意識していないとおそらく気にせず一先に読みほしてしまうだろう。1996年連載のため、この小説にも携帯電話やテレホンカードが共存している。山村さん部分では、携帯電話の記載があり、西村さん部分ではテレホンカードと携帯電話の表現が現れる。特にテレホンカードは病院の入院したとき病室にはカード用の電話しかないので、千円分のカードを買ってその消費量に言及しているものだ。丁度この時代は、携帯電話やポケベルやカード式電話が混在して広く利用されていた時で、私はもっぱらテレホンカードで連絡していたことを思い出す。同時代に執筆された「化粧した死体」や「双子の棺」では携帯電話はまだ全国をカバーできず、電波の届かない地域があった。やはりテレホンカードを始めとする公衆電話はまだまだ必要であった。

 「在原業平殺人事件」のC―novels版には筆者のことばとして山村さんの新連載の予告からを掲載している。業平の皇位や生き方と現代の殺人事件をからませて書いてみたいとのこと。一方西村さんは筆者のことばとして、山村さんが一番好きだったのは「可愛いいネ」と言われることだったとのこと。また、「私くらい扱い易い女はいないわよ。可愛いいネといって、バラの花束でもくれたら、いちころなんだから」といっておられたのこと。その才気の一端が見えるのがこの作品とのこと。なるほど。山村女史の死はいくら考えても残念としていいようがない。

windows95が発売されパソコンが個人にまで浸透を始めた1996年に亡くなられたが、現在を生きておられたら、情報の入手や伝達手段を大きく変えたスマホなどを推理小説にどのように活用されるのだろうか。よけいなお世話だ、ほっといてくれと言われそうだが、おせっかいを焼きたくなるのはご容赦いただきたい。現在のスマホやタブレットなどの状況を活かした推理小説をぜひ読みたかった。

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山村美紗 19  解説や筆者のことば3 [山村美紗]

 筆者のことばに感心していたら、山村作品の解説の中で、筆者のことばを引用して解説されているものを見つけた。1988年に光文社文庫として発行された「ミスキャサリン振袖殺人事件」ではカッパノベルス版の「京友禅の秘密」の中の筆者のことばを、1991年発行の光文社文庫の「琵琶湖別荘殺人事件」ではカッパノベルス版の琵琶湖別荘殺人事件の筆者のことばを、郷原宏氏が引用して解説されている。

 作家は当然その作品で読者を感激させるものだが、その作品について本人が解説や筆者のことばで一言記載してもらうと、読者にとってはより広く作家の気持ちがわかるのでは。作者の解説やことばばかりを集めた本が発行されても面白いと思う。あまりにもマニアックすぎるだろうか。

 どうせならその本の装丁も作者自身の趣味で作ってもらうと楽しくなるとおもうのだが。作品社が1998年5月に日本の名随筆別巻87として「装丁」という本を出版している。この中で、谷崎潤一郎氏をはじめ、古今の作家が装丁談義をされている。こだわりがあって面白い。最近は文学全集や百科事典なるものが発刊されなくなったが、奥付には、著者、発行所ばかりでなく本文用紙や表紙クロスの製造会社や装丁デザイン者など一冊の本の制作にかかわった各者が記載されていた。それだけ一冊の本の制作に力が入っていたのだと思ってしまう。現在では、音楽作品にしても、配信だと歌詞やデザインも残らず味気ない感じがする。一方、面積が大きく楽曲の作成者の主張ができるLPレコードが復権しているとの記事も読んだ。小説も配信などの電子データに移ろうとしている。そんな時代だからこそ、作家自身の主張や考えがつまった、解説や筆者のことばを集めた作品集を筆者の装丁で作ってもらうと楽しいのだが。山村作品ではどんな装丁になるのだろうか、山村紅葉さんにお伺いすればわかるだろうか。

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山村美紗 18  解説や筆者のことば2 [山村美紗]

 山村先生は、講談社ノベルスなどに「著者のことば」として簡単なコメントを記載している。1985年10月に講談社ノベルスで出版された「京都紫野殺人事件」では、その年の夏に外出先から帰宅したら侵入していた空巣に突然殴られ6時間も意識を失い、一時危篤状態にまで陥り、殺人事件の被害者になるところだったとのこと。思いもかけない出来ごとが突然やってくると書いておられる。出版された当時の状況を知って作品を読むと違った感想も生まれる気がする。

 カッパノベルスでは1988年9月発行の「京都花見小路殺人事件」は小菊と沢木の探偵コンビの作品だが、密室トリックのなかでも山村氏自身が特に気に入ったものとのこと。1984年7月の「黒百合の棺」では、レズビアンを取り入れたたが、男と女、あなたはどちらが怖いと思いますか、と意味真な表現をされている。

 他の作家では、と探してみたら西村京太郎の作品でも気がついた。著者の言葉として、出版当時の状況が記載されている。例えば、2006年9月ノンノベルの「夜行快速えちご殺人事件」では、昔北へ行く列車特に夜行列車はたいてい上野から出ていたのに、新宿からそれも深夜に出発するというのも、時代の流れかもしれない、と。確かに上野駅は大屋根もきれいになり、明るい駅中に変身しているが、下の14番線付近には、今も北へ向かう夜行列車の面影を残すホームがあるのも覚えておいてほしい、と思うのは私だけか。

 また、2008年4月のカッパノベルスの「びわ湖環状線に死す」では、今はまだ、東京の山手線のように、一電車で、びわ湖を一周できないが、と湖西線と東海道線をつないで環状線とする着想に感心してしまった。採算性は別にして、びわ湖一周の電車があれば確かに楽しいと私も思う。

 小説執筆当時や発行当時の状況や作家の思いが、自身の言葉や解説で示されると、読み手にとっては作品+αで得した気分になる。筆者のことばはそんな読者の気持ちをくすぐるための表紙の裏側での一言、なのかもしれない。

 

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山村美紗 17  解説や筆者のことば1 [山村美紗]

 小説を読んでいると、執筆時期や主人公によって作風が変化していることに気づくことがある。デビュー当時と現在とではどのように考えて創作活動をしているのだろうかと、ふと考える。作家の執筆当時の思いなどを知る事が出来ればと考えていた。それを知る手掛かりの一つとして、作品の後ろにある解説がヒントになるように思う。江戸川乱歩賞のように、賞を取った作品では、選評で小説作成当時の様子を垣間見ることができるのだが、そうでもないとなかなか作成当時の様子がわからない。

 作家自身が執筆当時の状況や背景などを書く場合もあり、1981年2月に出版された山村美紗の文春文庫版の「死体はクーラーが好き」を読むと、作品ノートとして本人がコメントを書いている。もとの単行本は1976年5月に立風書房から出版されたもので、その当時の山村先生の状況がよくわかる。1976年当時長編4本が出版されていたが、初めての短編集で嬉しかったこと、この短編集に収められている「血の鎖」「死体はクーラーが好き」「ストリーカーが死んだ」「憎しみの回路」「殺意の河」「歪んだ相似形」それぞれについて、各短編の掲載当時を懐かしんでコメントされている。作家として独り立ちするにはまだまだのようで、アマチュアの昭和42年(1967年)当時には、「目撃者ご一報下さい」と「歪んだ相似形」の2編を持っていたが「目撃者ご一報下さい」を推理界の掲載した後は、デビューするまでに持っていたストックは「歪んだ相似形」の1編だけだったとのこと。今でこそ、山村美紗と言えば女流推理作家として第一人者だが、作家への道が並大抵ではなかったことを懐かしく語っておられる。
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山村美紗 16  長谷川一夫 [山村美紗]

 山村作品の中で一作だけ異色の小説にめぐりあった。それが「小説 長谷川一夫」だ。同じ考えの人も多かろう。すでに絶版になっていたため、なかなか手に入れることが出来ず、時間がかかってしまったが、読売新聞社が1985年8月に発行した「小説 長谷川一夫」上下巻を読む事ができた。「あとがき」でやっと、何故長谷川一夫の伝記を描くことになったのか訳がわかった。山村美紗さんの母上と長谷川一夫とがいとこ同士とのことで読売新聞社が依頼したようだが、1984年5月から約1年間週刊読売に連載された。関係がなければ作家として書けるが、親戚となるとどうしても賞める書き方になるため、一度は執筆を断ったとのこと。しかし、繁夫人がそして一夫さんがなくなるに及んで、面白おかしく伝記を描かれるくらいなら、身内である山村さんが一夫さんの視点で書こうと決心された。それでこの作品が完成したようだ。読むまで内容を知らなかったため、初めはすごいタイトルの推理小説だと思ってしまった。さすが緻密に事前調査がされており、長谷川一夫の生涯についてかなり詳細に書かれている。一故人の伝記のため、その内容についてはコメントしないが、縁があって宝塚の演出、特に「ベルばら」の演出で、宝塚歌劇の名声を不動のものにしたなど、私も知らなかった面を教えてもらうことになる。これ以外はすべて推理小説だが、推理小説ばかりでなく、このような伝記や歴史小説や企業小説などいろんなジャンルで才女ぶりを発揮してほしかった。やはり答えは残念・・となる。
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