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芥川賞14 「ハンチバック」 [小説]

 この作品は第169回芥川賞受賞作品で、作者は市川沙央さん。選評を読むと、審査委員から今回は実力作ぞろいで、その中でもハンチバックは高い評価を受けていた。文学界でこの受賞の元となった第128回文学界新人賞を見ると、2229篇の中から選ばれたもので、やはり高い評価を得ていた。

 ipad miniword pressiphonetwitterなど現在の機器を利用して作品が作られている。「・・ワンルームマンションの部屋の中の移動であっても、私はいつも綿密に行動計画を立ててから立ち上がる。・・」との記載もあるように、体のことを考えると、単なる通信手段でのツイートや癖字などを隠すためのワープロ利用とは違い、生活や表現の手段としてどうしても必要なのでは。

 五体満足に生きているのが当たり前のように感じている自分にとっても、考えさせられる作品だった。


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芥川賞7 むらさきのスカートの女 [小説]

 第161回芥川賞が発表され文藝春秋2019年9月号に掲載された。今村夏子の「むらさきのスカートの女」。一気に読んだが何かが残るといった印象の小説だった。

携帯電話やPHSに関する描写もあるが、印象に残ったのは公衆電話についてで「・・公衆電話のボタンをプッシュする。プッシュしては、切る、プッシュしては、切る、を繰り返す。・・」との記載がある。そういえばダイアル式の黒電話からプッシュホン方式に代わってからは回すからプッシュするに変わった。ピッポッパッと言っていたように思うのだが。トーン信号と言ってこの音で電話をつなげるもので、トーンダイアラーという電話機に近づけて音を出さして電話をかけることもできる便利な代物もあった。スマホが当たり前の時代なのであえて公衆電話などでトーン信号を発生させて電話することもなくなったが、この原理は今でも使用されている。「ピッポッパッ」が気になったので調べてみたがさすがに商標登録はされていなかった。ただ「ピポパ」は登録番号4566907号で東日本電信電話株式会社が、その他、区分違いで他社でも商標登録している。発音してみるとよく似ている気がする。

 さて小説に話を戻そう。登場する、むらさきのスカートの女と黄色いカーディガンの女の対比が気になった。選者の中にも同じような評をする先生がいた。余韻のある内容、今後の小説を楽しみにしたい。

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ポケットベル4 [小説]

 西村作品ではポケットベルを使用した小説は1987年EQに掲載された「西鹿児島駅殺人事件」など限られているが、山村作品では多い。例えば、1994年にオール読物に掲載された「ポケットベルに死の予告」のようにポケベルが表題になっている作品もあり、1980年代から1990年代にかけてポケベルが多く登場する。電話からポケベルにかけられる範囲をトリックに使用した1986年オール読物に掲載された「恋の寺殺人事件」などもある。

2019年9月にはサービスが終了するとのこと。携帯やスマホにとって代わられたため当然と思っていたのだが、別な活用が図られている。ポケベルは280MHzの電波帯を利用しているため通信距離が長い、建物などの遮蔽物の中まで電波が回り込める、送受信の機器コストが安いなどの特徴を生かして、市町村単位の防災無線などへ応用されているとのこと。ポケベルサービス自体は終了とのことだが、別の形ででも残ってくれればポケベルが原点として歴史に刻まれる。

 ポケベルに限らず、過去の技術が新たな形で応用され進化していくことにエールを送りたい。

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ポケットベル3 [小説]

 ポケベルに絡んだ推理小説としては、1972年に別冊小説宝石に掲載された斉藤栄の「ポケベル殺人」がある。「大体ポケットベルの有効範囲は半径40キロ前後まででこのヨットまでは大丈夫だ。しかし、私が箱根を超えて静岡あたりにいれば呼び出せない。」「実は「ラルースⅡ世号」は、一種の船舶電話の用意があって、ちゃんと電話ができるのだ。」「ポケットベルで呼び出したのはこれまでに五回あったわ。ところが五回が五回ともポケットベルを鳴らしてから一分以内にあなたから電話があったのよ。・・・道を歩いていていつも必ず一分以内のところに公衆電話があるなんてそんな都合のいい話ってある。」「たとえば誰かが中継してやれば呼びたい人を呼べるわけでしょう・・」

 当初のポケベルは県境を単位とした範囲だったため県をまたぐとサービスを受けることができなかった。マルチエリアになったのは1986年になってからだ。そのため小説が掲載された1972年当時ではまだ県境を越えた場所へは連絡が出来なかった。遠方で殺人を犯しても、ポケベルをうけた人が殺人者に連絡し、殺人者が相手に電話をかければ、さも電波範囲内にいてポケベルを受けて電話をかけたと思わせることができ、完全犯罪が成立することになる。あと、注目されるのはわざわざ船舶電話を利用している点だ。斉藤栄さんが横浜市の港湾局に勤めていたことも無関係ではないのではと思ったりする。

今は携帯やスマホは全国いや世界にも即刻電話を借ることができるが以前の携帯電話でも電話範囲が限定されていた。今回のポケベルと同様に電話範囲を利用した犯罪も小説にされている。電波の到達範囲が記載された小説は山村美紗や西村京太郎にも登場する。考えてみよう。


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カズオ・イシグロ [小説]

 今年のノーベル文学賞が発表された。村上春樹さんなど下馬評があったが、カズオ・イシグロさんに決定した。どうしても私には「私を離さないで」の印象がぬぐえない。日本語訳の表紙にはカセットテープが装幀してある。当初この意味が分からなかったが、1956年にレコーディングされたレコードからカセットテープに録音した音楽が小説の中でポイントとなること、小説の内容などから透明なカセットテープを坂川事務所が装幀されたものだろう。やっと納得した。表紙から、カセットテープが絶世の1970~80年代の作品かと思ったが、2005年に発表されたもの。2016年のTBSドラマ化では現代風にCDになっていた。小説の題材としては結構重く、クローン人間の心境などをつづったもので、医学の進歩に呼応してまさに現代新鮮に感じる。

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