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邦文タイプライター3 山村美紗24 [山村美紗]

 「とと姉ちゃん」では、常子が会社を解雇され、邦文タイプ(和文タイプ)とタイピストが危ぶまれている。その中で、今回は山村作品とタイプライターについて眺めてみたい。

 西村作品では邦文タイプは個人のクセがほとんど出ない等個人を特定出来ない手段としても描かれている。確かに筆跡と違って個人を特定することは難しいため、推理小説としての使い方としては王道の気がするが、使う活字などから、ある程度機械を特定出来るのではなかろうか。

タイプライターでのタイプする機械のクセについて、山村美紗氏の小説では初期の作品から登場する。1970年の江戸川乱歩賞の応募作で原題が「京城の死」だ。「愛の海峡殺人事件」に改題され1984年になって光文社文庫で発刊された。ただ、乱歩賞では最後の5編には残ったものの、江戸川乱歩賞への応募当時は賞の選評で酷評されており、大谷洋太郎氏の「殺意の演奏」が江戸川乱歩賞を受賞している。このような作品だが、その中で、「・・タイプライターには必ずといっていいほど機械のクセがありますので私の手紙を打った機械を見つけようと思います。警察に李さんの家にあるのを調べてもらったら違いました。活字のクセというより機械のメーカーが違うのです。」「・・そのタイプのクセが同じなのです。李の字が摩減しているでしょう。・・」「・・彼の事務所で使っているタイプライターのクセが出ていましたから、・・」と。機械を特定し、誰が使用しているかによって犯人をあぶり出していく。

 さらに山村作品では邦文タイプの変わった使い方が登場する。原題は「虚飾の都」で1979年から1980年にかけて京都新聞に連載され、1984年に文藝春秋社から「扇形のアリバイ」として発刊された作品だ。その中では、「・・外国では男でもタイプを打ちますが、日本では特に邦文タイプの場合は女性が多いんですよ。・・」と日本では女性の職業を意識した表現がある。さらに、「・・タイプアート「タイプで絵を描くんです。主に電動タイプライターを使うんですが、たとえば女という活字を使って女性の顔を描いたりします。同じ活字を何度も重ね打ちすれば絵に濃淡をつけることも可能です。・・」と、タイプライターアートが登場している。今ならパソコンのソフトで出来るのだろうが、実際のタイプを使って絵を創造するのは大変だったろう。1930年代にジュリアス・ネルソンが英文タイプで作成した作品などからより高度なアートとして発展していったものだ。タイプも単なる印字から進化し、それを山村美紗氏はしっかり押さえている。
 英文タイプと違って漢字変換が必要となる邦文タイプは、ワープロ(ワードプロセッサー)が浸透するまでは、まさに職業婦人などの専門職であった。1982年に能率協会から発行された「ワードプロセッサ・ガイド」の創刊号には、ワードブロセッサーは和文タイピスト2人分の働きをするとの記事がある。当時のワードプロセッサーは150万円以上の価格で、まだまだ一般家庭にまで浸透する時代ではなかった。ひらがなカタカナ漢字を組合せて、日本語に優れた表現力を与える邦文タイプライターは1915年から約70年間にわたって便利な印刷機械としての地位を築いていた。確かに日本の十大発明だ。


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